駅伝ひろば箱根駅伝を支える学生たちが書いてます

No.374

第32回「みたこともない景色」

中山 葉音

 上智大学法学部国際関係法学科4年の中山葉音です。

 本日はクリスマスですが、私たち学連幹事にとっては、クリスマスというよりも「箱根駅伝まであと8日」。そして始まったばかりのように思える学連幹事としての活動に、私たち4年生はあと数日で別れを告げます。

 これまでの活動に対しては様々な思いが浮かんでおり、言葉にするのは簡単ではありません。ただ想像以上に苦しいことが多かった一方で、自分一人ではたどりつけなかった景色をみられた3年間でした。

 関東学連の学連幹事といえば、「箱根駅伝を運営している人たち」という華やかな印象を持たれることが多いですが、実際は、その華やかな「箱根駅伝の運営」の瞬間は長い準備期間を経たごく一部でしかなく、その裏には数えきれないほどの地道な業務があります。かくいう私も、トラックアンドフィールドの大会運営ができる、という表面的な魅力に惹かれ、安易にこの世界に飛び込みました。しかしここでは、全員が自分事として陸上競技に向き合っており、その熱量に圧倒されるばかりで、私にはここで活動をする覚悟が足りなかったと思い知らされました。また、活動を通して求められる責任の重さや業務の完成度を実感し、あらゆる面で能力不足を痛感しました。やめようと思ったのも一度や二度ではありません。

 それでも活動を続けることができたのは、選手たちがみせてくれる景色が忘れられなかったからです。陸上競技は、勝敗の二択だけでなく記録でも明確に順位がつく本当にシビアな世界です。そんな中、様々なものを背負ってひたむきに努力している選手の姿を目にしたら、そこから目を背けることはできませんでした。だからこそ私はこの活動を続けてきましたし、その景色は学連幹事としての活動なくしては見ることができなかったからこそ、私自身はこの景色をみせてくれる選手一人ひとりを大切にすることを何よりも大事にして活動してきました。

 トラックアンドフィールドの大会では競技進行やアナウンスを担当しています。やりたかった業務に携わらせてもらい、加えてやりたいことを自由にやらせてもらえた3年間ですが、達成感よりもつらいことの方が多かったです。

 見ているものを1%も表現できないアナウンスに対し、選手や観客へ申し訳なさを感じたこと。選手の活躍を余すことなく観客に伝えたいのに、肝心な選手に対する知識不足への歯がゆさを感じたこと。また「競技進行」という部署の特性上、自分よりも経験豊富な方に対して意見しなければいけない場面も多々あり、実力不足を痛感しながらも指示を出さなければいけないという状況は、無力感に苛まれることも多く本当に苦しかったです。

 それでも少しずつ余裕も生まれ、自分のこれまでの経験を活かせるスポーツDJに挑戦する機会ももらいました。これまでのアンケートなどから出場選手の好きな曲を準備し、その曲を選手が出場するタイミングで該当曲を流すことを心掛けていたので、選手から「好きな曲が流れたからより力が出せた」などの声をもらって、少しはなにかを返せた気がしました。

 「選手一人ひとりにスポットを当てた演出をしたい」というかねてからの思いを叶えることもできました。プロスポーツでは、スターティングメンバー紹介で事前に用意された選手ごとの映像が大型ビジョンに映し出されるのが定番です。それを見て、リアルタイムの映像をビジョンに投影しながらアナウンスをつけている陸上競技では、これを超える演出ができるのではないかと、第103回関東学生陸上競技対校選手権大会では男女1部のトラック種目分の選手テロップを全て作成しました。さらにリレー種目では、リボンボードを大学カラーに変更するなど、細部にもこだわった演出に取り組みました。終わった後、選手や先生方をはじめ、観客など多くの方から「よかった」「かっこよかった」と褒めていただき、また選手がSNSにビジョンも含めた選手紹介映像を投稿してくれた時は純粋に嬉しかったです。この演出はあくまでも大会運営に必須なものではなく+αなので自己満足といったらそれまでなのですが、それでも達成感が得られた大会でした。

 また関東学連の活動では、今年1年間Instagram運用を担当したり、また第101回箱根駅伝の準備期間では、YouTubeに掲載する意気込み動画の編集やSNSのカウントダウン投稿をおこなったりと、これまでにはない新たな挑戦にも恵まれました。このような環境に身を置かせていただけたのは本当に幸せだと感じます。

 苦しいことも多く、やめようと考えたと前述しているので矛盾していると思われるかもしれませんが、それでも今この瞬間、私は学連幹事として活動してよかったと思っています。この駅伝ひろばを書きながらも、「こうすればよかったな」という点はたくさん思い浮かびますし、これからもふとした瞬間に後悔はすると思います。それでも、ここでの活動を通して多くの方と出会い、知識を授けていただき、幸せな3年間だったことには間違いありません。終わりが近づいている今だからこそ、少し寂しさを感じてはいますが、最後まで全力で駆け抜けたいと思います。

 箱根駅伝は101回目を迎えます。一世紀以上もの間、多くの学生があこがれ続けてきた箱根駅伝は、選手にとってはもちろんのこと、ご家族や関係者にとっても一生の晴れ舞台です。そんな箱根駅伝に関われることに感謝し、出場選手が笑顔で終えられるよう、残りの日々も精一杯駆け抜けたいと思います。

 次の駅伝ひろばは中野です。まさに『名は体を表す』という言葉がぴったりの人です。いつも明るく、周りの人を元気にしてくれる中野ですが、ここまで多くの人に愛される人はなかなかいないと感じます。そんな中野の駅伝ひろばもぜひご覧ください。

 稚拙な文章ですが最後までお読みいただきありがとうございました。

 そして新春の箱根路を駆け抜ける選手たちへ、暖かい応援をどうぞよろしくお願いいたします。

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103回関東学生陸上競技選手権大会の選手紹介の一コマです。

飯田選手は2年前のヨーロッパ遠征に一緒に行きました。この活動での出会いに感謝です。